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福岡地方裁判所行橋支部 昭和56年(ワ)116号 判決 1982年5月11日

原告

鴨狩義男

被告

苅田町農業協同組合

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の申立

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金一三四万円及びこれに対する昭和五六年一〇月一八日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  第一項につき仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は昭和五四年八月一七日午前一〇時五〇分ころ、普通乗用自動車を運転中、福岡県京都郡苅田町大字与原三八七番地の交差点において停止したところ、後方より来た訴外佐藤食品所有で従業員訴外江種英明運転の普通貨物自動車に追突され、頸部及び腰部挫傷、左肩甲疼痛等の傷害を受けた。

2  原告は事故以来手柴外科医院に長く通院したが、未だに頸部、肩甲部の頑固な疼痛に苦しんでいる。

3  訴外佐藤食品は被告を組合として自動車損害賠償責任共済(以下自賠責共済という)の契約を締結している。

4  被告は原告の前記症状は自動車損害賠償保障法施行令別表(以下たんに施行令別表という)に定める第一四級の一〇の「局部に神経症状を残すもの」に該当するとして、原告に共済金七五万円を支払つた。

5  しかし、原告の症状は施行令別表の第一二級の一二の「局部に頑固な神経症状を残すも」に該当し、共済金額は金二〇九万円である。

6  よつて、原告は被告に対し、自動車損害賠償保障法(以下自賠法という)一六条、五四条の五に基づき、共済金の差額金一三四万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五六年一〇月一八日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因134項は認める。

2  同2項のうち、原告が手柴医院で治療を受けたことは認めるが、その余は否認する。

3  同5項は否認する。

施行令別表第一二級の一二の「局部に頑固な神経症状を残すもの」とは労働には通常差し支えないが、医学的に証明しうる精神・神経障害を残すものをいう。

原告の場合は、自覚症状は多様かつ長期間であるが、これを医学的に証明しうるに足る他覚的所見はなく第一二級の一二には該当せず、第一四級の一〇に該当するものである。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因13項記載の事実は当事者間に争いがない。

従つて、被告は原告に対し自賠法三条、一六条一項、五四条の五により共済金を支払う義務がある。

二  成立に争いのない甲第五号証の一、二、第六号証の一ないし二〇、原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第七、第八、第一〇号証を総合すれば、原告が本件事故以来手柴外科医院に昭和五四年八月二三日から昭和五五年六月二〇日(症状固定)まで入通院して治療を受け、症状固定後も頭痛、頸部痛等の後遺障害が残つていることが認められる。

三  原告の前記後遺障害が施行令別表で定める等級の第一二級の一二に該当するのか、第一四級の一〇に該当するのかについて判断する。

証人渡辺司郎の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第三号証の一ないし三を総合すれば自賠責保険や自賠責共済の実務においては、労働には通常差し支えないが、医学的に証明しうる神経系統の機能又は精神の障害を残すものを第一二級の一二とし、労働には通常差し支えないが、医学的に可能な神経系統又は精神の障害に係る所見があると認められるものを第一四級の一〇としていること、被告は、原告の症状は医学的に証明しうるに足りる他覚的所見がないとして第一四級の一〇に該当すると認定したことが認められる。

原告が症状固定したと認められる昭和五五年六月二〇日以後も頭痛、頸部痛等の後遺障害があることは前記認定のとおりであるが、医学的に証明しうる他覚的所見は本件全証拠によるも認めることができない。

そこで、被告が採用している後遺障害認定の基準が相当であるか否かが問題となる。思うに医学的に証明しうる他覚的所見があるかないかという実務で採用している認定基準は、施行令別表が定めている頑固な神経症状がそれ以下の神経症状で実質的に区別している基準とは文言としては相違しているし、現実に頑固な神経症状に悩まされながら、現代医学ではそれを他覚的に証明できない場合を想像するとその限りにおいて不公平を生ずることは否めないところであり、問題がないわけではない。

しかしながら、自賠責保険や自賠責共済制度は多数の交通事故の被害者に対して最低限度の補償による救済を迅速に実現することを目的としているものであり、そのためには客観的な認定基準による画一的運用によらねばその目的を達成しがたいこと、原告の受けた全損害の賠償は加害者に対する不法行為に基づく損害賠償請求により最終的に解決されるべきものであつて、最低限度の補償の迅速な実現を目的とする自賠責保険や自賠責共済に若干の不公平が存在したとしても、原告は本訴とは別の民事訴訟を起すことができ救済が可能なことを考えあわせると、被告が採用している認定基準はやむをえないものであり、被告が原告の後遺障害を第一四級の一〇に認定したことは相当であると認められ、原告の主張は理由がない。

四  以上により、原告の本訴請求は理由がないので棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 草野芳郎)

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